修士コア科目の予習に有用と思われる本
僕は修士コア科目の序盤で躓いたのですが、一つレベルを落とした講義+教科書で勉強した後にコア科目の資料を見返すとウソみたいに理解できることがとても多いです。
というのも、院試に受かるレベルとコア講義のレベルに少し開きがあり、講義で初めて聞くレベルの内容をイチから理解しつつ沢山出題されるAssignmentsを解くのはかなり負担が大きいので、労力をかけきれないと知識的にも精神的にもどんどん置いていかれる*1ということがある感じがしました。せめて全く初めてではなく簡単な理解だけでもしておけば、上述の障壁がだいぶ小さくなったのになあ…と。
ただ、最低限必要な知識・学部と修士コアの間のレベルの教科書とかはなかなか紹介されてない印象なので、コア科目(ミクロマクロ計量)について勝手にまとめてみたいと思います。自分が読んだもの、読んでないけど諸方面ですすめられるもの、雑多です。
全科目共通で必要なもの
院試に受かるレベルなら共有知識とは思いますが、一定レベルの数学については必須だと思います。
どの科目も量化子∃,∀などの論理記号を使った数式による解説が必須になってきますし、それに加えてミクロ・マクロでは基本的なCalculusとベクトルの扱い、計量では行列計算と確率統計が必要になってきます。このベースがないとかなり大変だと思うので、該当する授業や教科書で勉強しておくか、以下に挙げる各科目の本のAppendix等で準備しておくと良いと思います。
基本的な経済数学の教科書として以下は有用と思います*2。
ミクロ
Graduate levelでは前半に価格理論、後半にゲーム理論が教えられることが多いです。
価格理論では有名なMWG*3が鉄板中の鉄板で、ゲーム理論ではそれに加えてGibbonsやMyersonのテキストが使われることが多い気がします*4。
価格理論
価格理論については学部レベルとはかなり雰囲気が変わると思います。というのも学部では数値を与えての実際の計算が重視されることも多い一方で、修士以降は定理の証明がほぼ全てを占めるからです。なので、準備としては数学的定理の証明に慣れておくことが挙げられると思います。
とはいえ、経済数学・数理経済学の基本を押さえているSimon, Blume (前掲)の他にあまり良い参考書を知りません。他にできることといえばMWGの中身を覗いてみることくらいでしょうか。
両方とも分厚い教科書なので当然通読は難しいと思いますが*5、証明の途中に出てくる定理の名前だけでも覚えておくといいと思います。聞き馴染みがあるだけで理解の速さが随分違いました。
また、Varian Microeconomic Analysis. は「コアの前にこれくらい読めないと」という感じでよく引き合いに出されます。生産者理論から始まる章構成が特徴的で、僕はあまり好きになれなくて読んでいません。
ゲーム理論
ゲームについては個人的には学部と修士コアの差をあまり感じませんでした。強いて言うなら、範囲が若干広くなって不完備情報下のゲームについてもしっかり触れるくらいかなという印象でした。
ギボンズはひとつレベルを落とした教科書も書いていて、あまりゲーム理論に触れた経験がない人はこれを読めば大まかな流れをつかめるんじゃないかなと感じました。
マクロ経済学
学部と修士コアの違いが1番大きかったのがここかもしれません。学部では(ほとんど)扱わない動学最適化が最初から最後まで必須になることになります。また、マクロの分析は時系列の分析が必要になってくる一方でその手法はエコノメでは扱わないことも多いため、マクロの講義の中で時系列についても扱うケースもそこそこあるようです。
動学最適化を使うマクロ
最低限の準備という意味では、とにかく動学最適化の手法に慣れることが必須だと思います。その意味でBagliano, Bertola Models for Dynamic Macroeconomics.は良著だと思いました。比較的簡単な離散時間における計算からはじまり、コアで出現するモデルのベースとなるモデルまでをカバーしていて、計算過程も解釈も丁寧に書かれているイメージです。サイズがコンパクトなので通読が比較的楽なのも良いです。
Models for Dynamic Macroeconomics (English Edition)
- 作者:Fabio-Cesare Bagliano,Giuseppe Bertola
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2004/04/08
- メディア: Kindle版
もう一つ上のレベルとして、これを通して理解できていればほぼ確実についていける!という書籍としては、Romer Advanced Macroeconomics.が挙げられることが多いです。
Advanced Macroeconomics (Mcgraw-hill Economics)
- 作者:David Romer
- 出版社/メーカー: McGraw-Hill Education
- 発売日: 2018/02/19
- メディア: ハードカバー
BBがベースまで丁寧に連れて行ってくれるのに対して、Romerは分野に対して網羅的です。ある程度手法に習熟しているならRomerをざっと読むのも良いかもしれないです。
また、Web上で調べれば国内の先生の講義ノートが出てきたりして、学部のうちからこれにある程度目を通していれば…と思うことはありました。
時系列
これに関しては全くわからないです。エコノメの参考書の時系列の章を読むのが良いんじゃないでしょうか。当然基本のOLSあたりの話も把握しておく必要がありますし、悪い手では無いと思います。
計量経済学(エコノメ)
エコノメは行列計算を使って学部レベルでは扱いきれなかった部分の証明などに入っていきます。テキストとしてはGreene Econometric Analysis.やWooldridge Econometric Analysis of Cross-Sectional and Panel Data.ほか、AmemiyaやHayashiなどが鉄板な気がします(鉄板が多い)。
準備としては、行列計算と確率統計をある程度使えるようになっておくとよさそうです。また、エコノメの場合は講義の流れがほぼコアになっても変わらず、OLSの性質→前提を満たさないケースの対処法、と進んでいくので、学部上級レベルくらいの網羅的な参考書で全体の流れを掴むこともかなり有用と思います。
網羅的な参考書としてはWooldridge Introductory Econometrics.とStock, Watson Introduction to Econometrics.が鉄板です。全体の流れを掴むほか、Appendixや最終版のChapterに行列計算を用いたOLS関係のトピックの扱いがあります。最低限の準備として良いかもしれません。
Introductory Econometrics: A Modern Approach
- 作者:Jeffrey M. Wooldridge
- 出版社/メーカー: South-Western Pub
- 発売日: 2019/01/04
- メディア: ハードカバー
Introduction to Econometrics, Global Edition
- 作者:James H. Stock,Mark W. Watson
- 出版社/メーカー: Pearson Education Limited
- 発売日: 2019/03/30
- メディア: ペーパーバック
エコノメに使う数学を網羅的に、という狙いでいえば、コア教科書のAppendixに目を通すことも有用に思います。上記の本でも扱われている基本的な行列計算に加えて、同様の記法による確率統計の基本も押さえることができると思います。
定番のうちの一つであるGreeneについては、著者のページでAppendicesが公開されています。神。
Student Resources: Greene, Econometric Analysis, 8/e
Econometric Analysis [Paperback] [Jan 01, 2018] William H. Greene
- 作者:William H. Greene
- 発売日: 2018
- メディア: ペーパーバック
行列計算を使った計量経済学をフォローできる日本語の本としては、末石『計量経済学 ミクロデータ分析への』がとても良いと聞いたことがあります。表題的に時系列は含まれていなさそうですが。母国語で読めることのアドバンテージは思いの外大きいので、手元に置いておいて損はなさそうです。
追記:絶版になったという噂があります。読んでみたかったのでとても悲しい。
追追記:重版になったそうです。この機会に手元に置いておこうと思います!
感想
書いてみて思ったけどこれ院試後半年じゃ到底追いきれないなって感想です。
院試で出題されるものと傾向がかなり違うので両立できるものでもないですし…。とはいえ、入学後のことを考えると院試対策に最適化しすぎるのも考えものかもしれません。
似た内容について扱っている記事がありました。