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取るに足らない勉強日記

Wooldridge "Introductory Econometrics" 第1部 Regression Analysis with Cross-Sectional Data における改訂個所のまとめ

書いている間教科書を2冊持ち歩くのが一番しんどかった。

モチベーション

別記事で、Wooldridge "Introductory Econometrics"の入手しやすい第5版と最新7版との比較をして、改訂されている章を確認しました。

Introductory Econometrics: A Modern Approach

Introductory Econometrics: A Modern Approach

  • 作者:Jeffrey M. Wooldridge
  • 出版社/メーカー: South-Western Pub
  • 発売日: 2019/01/04
  • メディア: ハードカバー
 
Introductory Econometrics: A Modern Approach 5e

Introductory Econometrics: A Modern Approach 5e

  • 作者:Wooldridge
  • 出版社/メーカー: センゲージ・ラーニング
  • 発売日: 2012/09/26
  • メディア: ハードカバー
 

scientia-socialis-f-discolor.hatenablog.com

ところが、章単位でも結局半分くらいの章で改訂があると書かれていて、「改訂された章だけ読む」があまり時間・労力の節約効果を持たなそうでした。

そこで、節レベル・キーワードまで変更点を確認しよう、というのがこの記事の趣旨です。

この記事では第1部:Regression Analysis with Cross-Sectional Data(第2~9章)を確認します。

 

第2部(第10~12章)はこちら

第3部(第13~19章)はこちら

手法

全て精読していると時間がないので、とりあえず以下の2つの観点で比較してみることにしました:

  • 節構成の変化:追加された節があるか
  • Key Termの変化:トピック単位で説明が追加されているか

主な変更は大体この辺りに表れているというのが私の肌感覚です。

第1部:Regression Analysis with Cross-Sectional Dataの章構成

Part 1は以下の章構成になっています*1

  • Ch.2 The Simple Regression Model

  • Ch.3 Multiple Regression Analysis: Estimation

  • Ch.4 Multiple Regression Analysis: Inference

  • Ch.5 Multiple Regression Analysis: OLS Asymptotics

  • Ch.6 Multiple Regression Analysis: Further Issues

  • Ch.7 Multiple Regression Analysis with Qualitative Information

  • Ch.8 Heteroskedasticity

  • Ch.9 More on Specification and Data Problems

(引用:Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed.)

このうち、6版・7版の改訂で第5章以外はすべて大なり小なりの改訂があったらしいです(別記事参照)。それぞれの章の改訂項目について簡単にみていきたいと思います。

大体の改訂内容

個別の章を見た結果、だいたい読むべきところはこのあたりかな?という印象です。

  • 2-7 / 3-7 / 7-6 ( / 9-2 ):政策などの介入効果推定に関する追記。潜在アウトカムのアプローチが新たに導入されていて、この3(4)節だけで一貫して読める。
  • 4-7 / 9-5 ( / 6-7 ) :実証分析のお作法的な面について重要な追記という印象。

以下、個別の章について詳しく見ていきますが、↑の情報にほぼ集約される気もします。

追加された内容

各章について、第5版→第7版で新たに加わった節・Key Termsを確認しました。ここに書いていない節については、節タイトルも含め全く変わっていません*2

第2章:The Simple Regression Model

Binary Variableについて説明する節が追加されました。

  • 2-7 Regression on a Binary Explanatory Variable
    • 2-7a: Counterfactual Outcomes, Causality, and Policy Analysis

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

Binary Variableについては、以前は第7章あたりで出てきていたものを前に移した形だと思いますが、それに加えて簡単な因果推論タームについても説明が加えられています。実際、Key Termsには以下の単語が追加されていました:

  • Average Treatment Effect (ATE)
  • Average Causal Effect (ACE)
  • Binary (Dummy) Variable
  • Causal (Treatment) Effect
  • Random Assignment
  • Randomized Control Trial (RCT)
  • Treatment Group

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

政策効果検証などの文脈での因果効果推定の流行に対応して、政策実施/非実施などを表すBinary Variableとそれを用いたRCT等の推定手法に早めに触れることにした、という流れを感じます。

第3章:Multiple regression analysis: estimation

「どういう場合にOLSの仮定が成り立っているか?」について、いくつかのケースについて議論する節が追加になりました。

  • 3-7 Several Scenarios for Applying Multiple Regression
    • 3-7a: Prediction
    • 3-7b: Efficient Markets
    • 3-7c: Measuring the Tradeoff between Two Variables
    • 3-7d: Testing for Ceteris Paribus Group Differences
    • 3-7e: Potential Outcomes, Treatment Effects, and Policy Analysis

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

第2章の政策分析の追記といい、実証への応用に重きを置いた改訂が多いイメージです。また、この章もKey Termsが増加しています:

  • Frisch-Waugh Theorem
  • Ignorable Assignment
  • Unconfounded Assignment

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

追加された3語のうち、Ignorable / Unconfounded Assignment は政策効果推定の際にOLSを用いる際の望ましい状況として、追加された3-7節で触れられたものです。ここも、一連の因果推論関係の追記の一環で触れられている感じです。

Frisch-Waughの定理(FWL定理と呼ばれるほうが多いと思います)は第5版では名前が出ていませんでしたが、第7版になって3-2fのPartialling-Outの解説の部分で、定理名と後の章でも利用するという旨が簡単に追記されていました。

第4章:Multiple Regression Analysis: Inference

再度、Policy Analysisについての節が追加されています。

  • 4-7 Revisiting Causal Effects and Policy Analysis

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

テーマとしては、政策の介入効果について分析しているときにコントロールした変数の係数の統計的有意性をどう解釈すべきか?という話が中心で、最近の実証分析・計量経済学のテキストでは必ず触れられている基本的なお作法という印象です。自分はちゃんと理解できていなかったなあと。

Key Termsについては変化はなかったです。

第5章:Multiple Regression Analysis: OLS Asymptotics

この章については、章構成・Key Termsともに変わっていませんでした。

第6章:Multiple Regression Analysis: Further Issues

この章では、一連の因果推論関連の追記のうち、様々な関数形における平均効果導出について触れられていました。

  • 6-2 More on Functional Form
    • 6-2d: Computing Average Partial Effects

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

6-2節は二乗項・交差項などの非線形な関数形について触れているのですが、関数形が非線形の場合は説明変数の限界効果が説明変数にも依存し、個体ごとに限界効果が違ってきます。そういう場合にどのように限界効果をReportするか?という話の導入として、APEの概念を導入する節を加えたようです。Key TermsにもAverage Partial Effect (APE) が追加されています。

第7章:Multiple Regression Analysis with Qualitative Information

Program Evaluationに関して大幅に追記されました。

  • 7-6 More on Policy Analysis and Program Evaluation
    • 7-6a: Program Evaluation and Unrestricted Regression Adjustment

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

もともと7-6節で簡単に触れられていたSelf-Selectionの存在する場合のProgram評価について、因果推論で用いられる表現を使ってより丁寧に解説しなおしている印象です。Key Termsには、その説明の中で用いられた”Covariates” ”Regression Adjustment”の2語が追加されています。第2章でRCTによる因果効果推定を導入したのに続き、RCT的状況ではない状況下での推定をこの章で扱っている、という流れかなと思いました。

第8章:Heteroskedasticity

この章についても、節構成・Key Terms双方ともに変化はありませんでした。

第9章:More on Specification and Data Issues

この章については大きく2点の改訂があったようです。

まず、代理変数と潜在アウトカムとの関連性について議論した新しい節が追加されました。

  • 9-2 Using Proxy Variables for Unobserved Explanatory Variables
    • 9-2c: Potential Outcomes and Proxy Variables

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

2-7、3-7、4-7、7-6節で導入してきた潜在アウトカムと観測されない変数に対する対処としての代理変数の関係性をつなげるような説明が加えられています。

 

2点目として、欠損値に関する9-5a節が大幅に加筆され、新しい概念が数多く導入されていました。Key Termsには以下の4単語が追加されています:

  • Complete Cases Estimator
  • Missing at Random (MAR)
  • Missing Completely at Random (MCAR)
  • Missing Indicator Method (MIM)

(Wooldridge "Introductory Econometrics" 7th ed. より抜粋)

回帰分析をする際に欠損値の発生に関して留意するべき点、特に欠損値の発生の仕方によって問題があるときとないときがあることなどについて、第5版よりかなり詳細に触れている印象でした。欠損処理についてはそれだけで1分野を築いているような印象があり、第7版ではそれらへのReferenceも提示しています。

欠損値への対応も実証分析の基本的なお作法のうちとも考えられるので、是非最新版を読んでおきたいところです。

 

まとめ

基本的には政策効果の不偏推定についての追記が多かったように感じます。裏を返せば、一致性などに関係する第5,8章に大きな改訂がなさそうなことからも分かる通り、基本的な理論については古い版で勉強しても結構大丈夫そうかなという感想でした。

ご参考になれば幸いです。

 

*1:章構成は第7版のもの。第5版の段階では章タイトルが少し違ったりします

*2:すべての節についてタイトル込みで記載すると著作権違反になりそうなので、追加or削除された節のみについて記載するにとどめます